金沢でフランス語、英語、美術を学び、ナンシーへの留学を目論む、はぐれ医学生のブログ。至高にして究極の人形を生みだすために奮闘中。 急げ!人生には学ぶべきことが多すぎる。
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留学生的生活 オリエンテーション
パンフレットを見た感じ。わしのフランス語力はイマイチなので違うところもありそう。Ecoleというのは英語で言えばSchoolとなる。

Nancy-Universitéとは三つの教育機関の総称である。一つは理工数農生医歯薬などの理系の大学Université Henri Poincaré。二つめが政経法地歴言文哲心もろもろの文系の大学Université Nancy 2で現在わしが所属しているところだ。最後に日本には存在しないエリート養成機関たるGrandes Ecolesの一つ、理工科のスペシャリストを育てるl’Institut National Polytechnique de Lorraine。Nancyは学生4万人を数え、フランス国内で5番目に多い街だそうな。すごーい。Nancyの人口が10万、Grand Nancy(都市圏ってことかな)が26万だから、本当に学生だらけだ。

ちなみにわしが美術を学ぶのにお世話になっていた教育学部のような教員養成機関は、(帰ってからもなるだろうけど、)Nancy 2にはないみたい。教育学の研究者と教員は別物ってことか? Lycée、つまり高校の教員を養成する役割はINTUに属するEcole National Supérieure、つまり国立高等師範学校が担っていて、ナンシーには理工、木工、情報、農業、機械、地質、鉱業、化学、資材、システム、とあるみたい。内情がまだ全然分からないから何とも言えないけど、エリート教育推進派のわしにとっては、フランスの人材育成術が気になるところ。

しかし妙な話だ。自分の成長は自分の人生を楽しむためだけにあるのだし、世界がどう転ぼうと自分の財産を損なわない限りは知ったこっちゃねーと考えているオールウェイズ自分人間のわしが、一方で、若い人材が優秀に育ってくれれば社会がより良くなるんじゃないか、それはきっと望ましいことだと考えている。まあその考えも、回り回って自分に利をもたらすことを期待しているから生まれたものだが。かく言うわし自身も、バタフライエフェクトか何かで遠まわしに世界に何らかの影響を与えずにはいられないんだろう。観測の仕様が無いが、どうせなら良い影響であることを祈るばかり。

さて、理系の学校は数が多く、駅の東から西から中心部から郊外まで各所に散在しているが、文系の学校は政経法のキャンパスとその他の人文科学のキャンパスに大きくまとまっている。いずれも中心部に近い。わしはもちろん人文科学キャンパスを案内される。ネットに繋げるパソコンが豊富な情報センター。フランス語を学ぶための映画や音楽、教材など各種オーディオソフトの揃った施設。衛星放送やラジオが聴ける部屋。バンド・デシネも読める教室棟の図書室。ヨーロッパ各国の文学がずらりと並ぶ図書館。柔道場もある体育館。

授業の説明もされる。前期の授業は来週の月曜から。試験は一月末。その間の休暇は万聖節とクリスマス。聞き取り、筆記、読解、それぞれの授業が一週間に4時間。L’Informationの授業が2時間。何するんだろう。聞き取れなかった。L’art culturelの授業が2時間。これは選択制。小説を読んで批評を書いたり、学生らで議論しながら一編の推理小説を作ったり、映画会社にアシスタントしにいったりできるらしい。女性教師がフランス語の教授について熱弁。意見を求められると学生らも真摯に返答する。もうぺらぺらのロシア人や韓国人は勉強しなくていいじゃん! って思うけど、彼らにしてみても不足しか見当たらないのか。わしは答えるどころか聞き取ることにも冷や汗。クラスと時間割が張り出される。良し。早いと8時から授業があるクラスもあるのに、9時からしかないクラスに入れた。

部屋に戻ると進行中のもの、解凍さえしていないものも含め、フリーで落としたゲームをほとんど削除する。ゴミ箱を空にする。ディアボロの大冒険は何だか惜しくて消せない。ちょっとやろう。黙々。あっ。凡ミス(記憶の戻ったウェザーに射撃、しかも二回連続で!)で数十時間に渡って鍛え続けたアイテムが全て消えた……。潮時だ。これもデリート。もう暇つぶししている
時間は無い。
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留学生的生活 クラス分けテスト
わしの住む寮から歩いて二十分、ナンシー大学のCampus Lettres et Sciences Humaines、日本語で言えば人文科学科のキャンパスで、外国人がヨーロッパ諸言語を学ぶためのプログラムであるErasmusに参加する。学期末に行われるDefleやらDafleとかいう試験に合格すれば語学力の証明になる。最終的にはフランスの大学に正式に入学するだけのフランス語運用能力を身につけるのが目標、らしい。

クラス分けテストは面接、聞き取り、筆記、読解、合わせて二時間以上にも及ぶ。面接では名前や何を専攻しているのか、なぜフランス語を勉強しに来たのか、この街は良いところか、といった基本的なことを聞かれる。基本的なことしか聞かれなかったのは、難しいこと言ってもどうせ分からんだろうなぁ、とか思われたからかもしれない。なにしろ自分の名前のアルファベットも碌に発音できないのだ。聞き取りは四段階のレベルの音声を聴いて答える。二段階目からもう早口過ぎて付いていけない。三段階目はさらに知らない単語が多くてさっぱり。四段階目はラジオのようで、BGMまでかかっていて何が何やら。筆記はA4の紙一枚に問題が一行とびっしりの罫線。「なぜナンシーに勉強しに来たのですか?」こういうのは金大の授業でもやった、できるはずだ……、と焦るだけで手は動かない。いびつな文章で半分も書けない。うぐぅッ。隣のアメリカ人(?)はびっしりと筆記体で埋めていた。筆記体なんて書くことはおろか読むこともできない! 読解は新聞記事のコピーを読んで内容について問われる。子供の兵隊を解放しようとするNGOについての記事であった。うーん、どいつもこいつも当たってる気がしない……。

おそらく、いや確実に一番下のクラスからスタートすることになりそう。その中でもかなり苦労することになりそう。ヌケサクって呼ばれそう。何だろうこの感じ。この町に来てからというもの携帯電話が鳴ることさえない悠々気ままな一人暮らしを謳歌していた付けが回ってきた、っていうか、もっとずっと昔に遡って何年か分の報いがやってきたような。

うぐぐ。ここまで自分が出来ないやつだったとは……。どんよりと落ち込んだわしはいつも通りに夕飯を食べ終わったあと、オレンジを一個余計に食べる。二個余計に食べる。チョコレートのムースを一カップ食べる。おいおい自分やけ食いですか、太るやつはこうやって太んのかな〜、と思う。でもそれだけでお腹の膨らみを感じて止める。ベッドに横になる。

明かりを消して考える。出来ないのは出来ない。そんなの昔からそうじゃないか? 見て見ぬふりをしてきただけだ。成長しろ。死ぬ気で勉強しろ。圧倒しろ。跪かせろ。蹂躙しろ。偉そうに自分に口を出す。思うことは容易い。行動することは……。
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留学生的生活 食事について
去年一人で旅行した後、掛かった費用を計算して、全然贅沢しなかったはずなのにえらく高くなっちまって参った参った、と思った。外食しかしなかったのが原因だろう。天狗やサイゼリアみたいに何でもない値段で食事できる店は無いのだ。もう滞在して二週間になるが、学食を別にすれば一度も外食していない。サンドイッチ一つ買っていない。

寮のキッチンはというと、鍋やレンジや塩胡椒や食器や洗剤やらが全く備え付けられていないさっぱりしたところで、電気調理器と水道があるのみである。料理をする人は器具調味料を部屋に置いてるんだろうが、作ってる最中の人を見ることはおろか、物音さえも聞いたことがない。まあ、わしがいるのは男性しかいない階だし、自炊している人も他の階にはいることはいるんだろう。でも、安価で手早く温かい料理を食べられる学食という建物が眼前にあるもんだから、今日もキッチンでは閑古鳥が鳴いているに違いないのだ。

寮の隣の学食にはResto’ UとBrasserieがあって、前者は定食、後者はセルフチョイス。12時を過ぎると午前の授業が終わった学生が押し寄せてくる。定食はお買い得だ。列に並んでトレイの上に短いバゲットを取る。サラダの皿を一つ選ぶ。ヨーグルトやチョコレートのお菓子から一品デザートを選ぶ。オレンジやリンゴ、バナナの中から一つフルーツを選ぶ。主菜は共通。前もってチャージした学生証で支払いを済ます。2,85€。朝食はヨーグルト一カップで済ませてきた方がいいぐらいのボリュームがある。ちびちびとした日本の学食のメニューはもう食べる気にはならない。

自分の部屋で食べるときは、寮の敷地からセルフサービスのガソリンスタンドを挟んで徒歩3分にスーパーがあるので、そこで買い物をする。ユーロがここ数年で随分高くなってしまったが、食料品が高すぎて底辺極貧銭金生活だ〜、なんてことはない。バゲットは400グラム0,75€を買えば二食分はある。チーズは200グラム2〜4€で、種類が豊富すぎてどれを買うかいつも迷う。外国に住んでるんだから当たり前だが、外国産のチーズが安い。リンゴはキロ2€。袋に詰め、秤で測り、出てくる値段のシールを貼る。これも日本より同じか安いぐらいだろう。ワインはピンからキリまであるようだが、違いがさっぱり分からないわしは値段で選ぶしかない。一瓶75センチリットルのテーブルワインが2€。ペットボトルに入った白ワイン1,5リットル1,5ユーロという格安品もある。もはやオレンジジュース以下である。

日の高さを気にすることなくワインを飲みながら、バゲットにチーズを載せて齧る。火を通す必要のある食品には手を出せないが、赤ワインとカマンベールチーズがあれば他には何も要らねぇなぁ、って気持ちになる。心配しなくてもそんなたくさん飲んじゃいない。二週間で瓶4本、つまり3リットル。こんなに美味いのによく節制が保たれている。
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留学生的生活 初日昼
事前に来たメールによると、駅構内に留学生を迎えるための臨時の案内所があるはずだ。あった。ただし10時から。まだ誰もいない。本屋をぐるりと回って時間を潰す。10時になったがまだ来ない。やれやれ。日本じゃないんだから時間通りに事が運ぶはずない。いつになるのか分からないのにわざわざ待つこともあるまい。主要な道路と寮の場所が記載された極めて簡素な地図は送ってきてあった。わしが住む予定の寮は駅から直線距離にして約1000メーター。歩いていこう。「遠路はるばるようこそ! え、今日パリに着いたですって? そりゃさぞお疲れでしょう、さっ、荷物を貸して。この車で寮までお連れしますよ! さぁさぁ遠慮せずに!」なんて言葉など端から期待しちゃいない。

ずるずるずるずるずるずるがたたっ……、とパソコンバッグを載せたスーツケースとキャスター付きリュックサック、計六つの車輪を駄馬のように引いて歩く。荷物を減らすためと防寒のためにジャケットとコートを重ねてきていたのが、邪魔になってくる。暑い。日本の道のように掘って掘って埋めたような見苦しいでこぼこが無いのが幸いだ。途中で地図と睨めっこしていると眼鏡をかけたおばさんが、あなた学生? どこにいくの? あら、Medreville寮? 私すぐ近くに住んでるのよ。えっとね、この道をまっすぐ行って、$%&‘+{‘教会}*?>+;=左&「“分かった? って聞かれるけど聞き取れてない。とにかくグラッツェ。この道が正しいってことは分かった。

そしてそのまままっすぐ行くと……おお! あれは学食か!? そんで横にあるのはCROUS (Centre regional des oeuvres universitaires et scolairesの略、生協みたいなもの)ではないか。じゃあ奥にある建物が寮だな。寮の申し込みはCROUSを通してしてあって、後で行かねばならなかった。どうして今まで地図を見てて気付かなかったんだと思うけど、とにかくすぐ近くにあるのはラッキー。CROUSの建物に入って寮の契約をぅ、とか何とか言ってると一つの部屋に通される。パソコンを打ってるお姉さんに、今日日本から来たものでして、あのその、名前はHolidaysukeです、とか語彙以前に何もかも貧弱なフランス語で何とか寮に入りたいことを説明すると、分からないわ、どうしてほしいの? 困ったわね、って感じなので、電子辞書を頼りにさらに説明する。すると書類を渡され、寮の管理人室まで行って提出するようにとのことだった(半分以上英語で説明させてしまった)。

でも管理人室ってどこよ? 荷物を引きずって寮の玄関口まで来る。この寮もヨーロッパ式に則っていて、まず階段があって、登ったところ、つまりは日本で言う二階を一階と呼ぶ。一階はrez-de-chaussée (直訳すると、道路に水平な場所)と呼ぶ。荷物が重いので参ったなあ……、と佇んでいると学生らしき女性が話しかけてきて、何やらむにゃむにゃ言う。いやー、すいませんもっと遅く喋ってもらえます? 何しろ全く分からないもんでして……、とか答えてるとその人はわしのリュックを持って階段を登り始める。どうやら荷物が多くて困っている異邦人を助けてくれようとしてたらしい。紳士淑女の国だぁうるうる、とか思うけどわしはメルシーボークーしか言えない。言葉が分からないと親切するほうもされるほうも大変だ。で、中に入ったはいいもののそれらしき部屋が見つからない。奥のほうで掃除している二人組みのおばさんに聞いてみる。相変わらず聞き取れない。分からないで突っ立っていると、ついて来いと言われる。エレベーターで地階(一階)に降りて外に出る。あれ? と思ってると、寮の玄関脇にあるさっき通り過ぎた建物が探していた管理人室だった。

管理人のおばさんも英語ができない人でお互いに困る。でもいくつかの書類にサインをして家賃を払うだけだ。さらさらさら……。あれ、この書類、日本に送ってきてわしがサインして送り返した奴と同じじゃん。わしが送ったのはどうした? と聞く言葉も持たないし、小切手とか大事なものを入れてたわけじゃないし、今こうして寮に入れさせてもらえるんだから気にしない。寮費は一ヶ月158,30€で、三か月分をまとめて払う。他に162,00€の敷金を払う。サインし終わって金も払ったが、他にぎゃあぎゃあ何とか言ってる。何だろう、何か手続きが残ってるのか? 部屋番号と人の名前が書いた紙を見せてAssurance、と言う。保証人? 見ず知らずの学生どうしでお互いに保証人になれってか? 不思議な制度だ……。掃除のおばさんに部屋まで案内してもらうために寮内に戻る、と思いきや、もう一人のおばさんが日本人の女性を連れて降りてくる。日本語で説明されてやっと分かった。保証人はヨーロッパ在住の人になってもらわないといけなくて、それは多くの留学生にとっては無理だから、とある会社が保証人を代行してくれるのを申し込みに行かなくてはならない、ということだった。管理人のおばさんは日本人がいるから聞きに行け、と言いたかったのだ。日本人の世話にはなるまい、って曖昧に決意してたのに、初日から助けられてしまった。

ひとまず保障を買いに行くのは後回しだ。おばさんに部屋まで案内してもらう。シーツと毛布は一組支給される。この寮は上から見ると手裏剣のような形をしていて、一回の刃の先端がわしに宛がわれた。部屋に入るとどびっくり。この部屋使っていいのか?この新しくて綺麗な部屋を月2万5千円程度で、水道光熱費込みで、広いデスク、チェア、蛍光灯、冷蔵庫、ベッド、マット、ゴミ箱付きで、大きな窓もブラインドもあって、スーツケースの中のもの全部開けてもまだまだ余る収納もあって、鏡もあって、蛇口もあって、お湯のほうに捻るとすぐにお湯が出てきて、10月になれば暖房も自動的に点くこの部屋を? 難点を挙げるならシーリングライトが無いが。充分だ。いい生活が送れそうな予感がした。
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留学生的生活 初日朝
朝の冷え込みを飛行機から一歩足を踏み出した瞬間に感じる。去年の夏休みに来ていたおかげで、夏の寒さは身に染みている。どうせ8月なんだからTシャツで充分だぜ!と思ってほとんど長袖を持っていかなかったので、持ってきた服を全部重ねて着てもがくぶるがくぶると震えることになってしまった……。今回はダウンジャケットも詰めてきた。近いうちに使うことになりそうな予感。

 入国の日時を記すスタンプは滞在許可を得るのに必要なのだが、話に聞いていたとおり押してくれない。一週間も滞在せずに帰るただの旅行者だと思っているのか? こんなとき何と言うべきかなんて当然知らないので、スタンプスターッンピィット! と英語+ジェスチャーすると押してくれた。査証じゃなくて追記のページに押されたが、多分問題ないだろう。

 荷物は割りと早く出てきた。しかし参った。でかいし重すぎる。ゲートをくぐろうとすると黒人の係員が何やら話しかけてくる。荷物の証明書を見せろって? かと思ったがそんなのいちいちチェックしてるわけではないらしい。見せようとしたら碌に確かめずに突き返される。ザルもいいところだ。指差す方向を見るとどうやらカートを使えと言っているらしい。確かに仰るとおり。でもこの三つの荷物をどんなふうに積んだら安定するんだ? スーツケースを縦に乗せリュックを脇にパソコンをスーツケースの上に乗せてベルトを指に挟んで……とかやってると、どたッどたッと崩れてしまう。係員が、日本人のボーイはしょうがねぇ〜なあ〜こうすりゃいいだろうが? とか言ってるのかどうかは知らないけど代わりに積んでくれる。来て早々親切に逢ってしまったようだった。メルシー。

さてナンシーに行くためには東駅からTGVに乗らなくてはならない。東駅まで直通のバスは350系統。バス停の場所は去年も使ったから知っている。でも飛行機が早すぎたから始発まで一時間近くある。バス停の見える空港の出口のガラス張りの部屋で待つ。こんな朝早くだというのに高速道路を車がひゅんひゅん走っていく。ホテルの送迎バスやタクシーが停まって、わしが乗る気がないのを見て取ると再びひゅんひゅん走る光に合流していく。わしは「ヨーロッパ鉄道の旅」を読みながら、これからどうなるんだろうなぁ、実は留学生として認可されてなくて今日の夜には帰国するためにここに戻ってんじゃないか……とかくだらないことを考える。

 ここのバスはパリ市内まで行くおそらく最も安い方法で、ボンジュールムッシュートロワチケッシルブプレー、と車掌に言って切符を三枚買って使用済みの印を押す機械に差し込んで座る。4,80€か。徐々に高くなってるみたい。高速を走っていくとみすぼらしい郊外、近代的なサッカースタジアムだと思う多分、両脇に壁のように古い建物がそそり立つ街中と風景が変わっていく。次は小立野お降りの方は〜、なんてアナウンスは一切無いので、自分がどこにいるかを知るためには過ぎ去る停留所の名前を捉えるしかない。ま、東駅は終点なので安心だ。人がいなくならない限りは乗ってればいい。

 さて一時間で駅に着いた。カルト12-25という若者専用の割引券を買っておくと、一年間フランス中の鉄道が半額程度で乗れる。窓口でうにょうにょのフランス語を駆使して購入。券は券売機でクレジットカードで。二等級。28€か。現金は入らない。本当にカード有りきの社会だ。トイレに行きたくなったので探してみるとあったあった。ただし0,50€。うーん。日本人的感覚からするとトイレに金を払うのは馬鹿馬鹿しい。TGVに乗るまで我慢しよ。少し構内を歩き回ってるともう時間だ。改札が無いので全く金を払わなくても電車の中まで行ける。ただしここでも機械に券を通して印を押しておかないと、車掌の巡回に遭ってアウツだ。改札が無いと駅はずいぶん広く感じられる。日本だと改札を越えるとキオスクにしか行けないので、無いほうが便利な気がする。

 二等車っても普通に綺麗だ。トイレもうんざりするようなものではない。外国の鉄道というとすぐにシベリア鉄道を思い出して、もう乗りたくねー! って気分になってたが、こいつは考えを改められそうだ。車窓を眺めながらうたた寝。パリを出ると一向に変わり映えのない田園風景。田園。田園。田園……。で、地平線まで見渡せるような、駐車場に車が数台止まっているだけの、駅というより畑の真ん中みたいなところに一度停車して、後はずっと走りっぱなしで、やはり田園しか広がっていなくて、乗る電車間違えたか?と思っていたら到着予定時刻のちょっと前からやっと建物が現れ始める。1時間半電車に揺られて、午前9時42分にわしは目的の街に着く。
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留学生的生活出発
父と共に成田空港に向かう。父がついて来るのは珍しいというか初だ。特別話すようなことは日頃から無いし、今回も無い。以心伝心というわけでもない。父はわしの発音がはっきりしてないと言うが、わしも父の言葉は聞き取れないことが多いのだ。お互いの考えていることは分からない。ともあれ電車の隣の席が見知らぬおじさんで昼間からビールを飲みながら駅弁を食べてぐうすか眠りこけて身体が傾いてきて……という萎える状況にならなかったのは有難い。越後湯沢と東京で乗り換えてはるばる五時間。空港へ行く手間を考慮していなかった。セントレア発にすべきだったとそのときになって気付く。正直言うと最後にアキバのブックOFFに寄って文庫本を詰めるだけ買おうとか考えてたのだが、いざこの日になるとそんな気は雲散霧消しているし、もうスペースは空いていない。

空港は深夜ということもあり静かだった。父とラーメンを食べた。ラーメンを啜りながらわしを襲っていたのは、火もないのにもくもくと湧いて出てくる煙のようで……とにかく理由もはっきりわからず不安だった。

友人が出来ないかもしれないのが不安なのか? 違う。日本でだっていなくても構わない。 病気になるのが怖いのか? それも違う。保険会社に電話すれば済むことだ。 寮の契約書類がちゃんと受理されているか気になるのか? いや、追跡できる高い郵便で出したから届いたことは分かっている。 寮が金大のみたいに安かろう悪かろうだったら一年うんざりだなと思っているのか? まあユースホステルよりマシなら我慢できる。 親に会えなくなるのが寂しいのか? もっと違う。わしは金沢に籠もりっきりか旅行に出てばっかりで、たまに帰郷するのは親に会うためでなく祖父母に顔を見せるためだ。 留学中に祖父母が万が一亡くなってしまったらと考えているのか? それはわしがどこにいても仕方のないことだ。そのときの帰国費用を出す保険にも入ってるし。 この一年でどれだけの実りを得られるか分からないから? それは、ある。 何がしかの結果を出さないまま、社会的地位賃金の約束された医学部を離れ、親の金を生活の糧として日々を過ごすのは、なんだか嫌な感じだ。

みたいな問答を繰り返しているうちにラーメンを食べ終わって、そろそろ荷物を預けなくてはならない時間。預け荷物は一個だけ20キロまで。出発前に測ったのは20キロ400グラムで、少しぐらいおまけしてくれっかなと期待して乗せると案外軽くあと1キロは入る。持ち込み荷物がかなり重かったので、すいませんちょっと今から入れ替えさせてください、と断ってノート5冊とスケッチブックをスーツケースに移動してまた測ると何故か今度は3キロオーバー。 ちょっと重いですね? ああ、まあ、もう一回お願いします。 スケッチブックを戻すと奇妙なことに1.5キロも減り、お姉さんは、いいですよこれで、と言ってコンピューター内の重さを20キロに揃えてくれて助かった。

手荷物は二つまで、12キロ以内という制限があるので、日本の気温には不釣合いな格好をすることになるがジャケットとジャンパーを重ねて着てカバンを一つ減らす。重さはきっと測らないから無視だ。この出国ゲートを越えるとともう戻れない。父は相変わらず何も言わないで、元気でなとか何か言ったのかもしれないがよく聞き取れなくて、わしは握手を求める。父はそんな一般的な挨拶の仕方を虚仮にする方なので、ガンバッテコイワガムスコヨ! とあからさまに心を込めない調子で両手でわしの手を握りぶんぶん振って離す。

出国スタンプを押してもらって搭乗口付近のベンチで休む。結局重さを無視して通過できたが、してやったぜうっしっしと忍び笑いできる重さではない。書類、本(これが重い)、ノート、カメラ、カバンを満載にしたキャスター付きリュックサックとノートパソコンバッグ合わせて25キロはある。飛行機を降りたらスーツケースも自分で運ばなくてはと思うと頭が痛い。ゆっくり進めばなんとかなるか。

飛行機は隣と前後の乗客によって居心地が大きく変化する。わしの場合後ろの人が……、エコノミークラスの容積を十全に埋め尽くして余りある腹の飛び出たフランス人だった。後ろからぎゅうぎゅう押してきて席を倒すどころではない。これはわざとじゃなくて生理現象というか体質だから仕方ないじゃんって思い込んでイラつく気持ちを抑える。それにあまり寝るつもりはない。フランスに着くまでにフランス語を少しでも勉強しておかなくては。出発が近くなったらやる気が出るだろうとか思ってたら、アニメを見て漫画を読んでゲームにはまる現実逃避的生活を逆に始めてしまった。これは日本の文化を吸収する時間をたっぷり取ったのだ、とレッツ・ポジティブシンキングー!に努められないほどにまるっきり勉強していない。どうせ読めないのにLe Mondeを手に取るがやっぱりサッパリだー!でも風刺画がリーマン崩壊を表しているのは分かる。ドルはともかくユーロの上下が気になって仕方ない。

そして約13時間のフライト、時差はサマータイムで7時間遅れ、日付が変わって午前4時過ぎにシャルル・ド・ゴール空港に到着した。
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行くぞ!悪徳の栄える都へ!
   とは言ってもパリは通り過ぎるだけだ。フランス観光に行こうとするとパリを経由せざるを得ないので、わざわざ大荷物を抱えた今ルーブルやオルセーを見にいく気にはならない。

   この一週間、岩窟王のDVDを涙をはらはらとこぼしながら見直し、JOJOをひっくり返すように読み返し、あれこれ食べたり飲んだりしているうちにあっという間に出発の日を迎えてしまった。

   杉の井で鮎、クックでチキポロ、若葉でおでん、きときと寿司で回転寿司、N島さんちで味噌汁、実家で赤飯を食べさせてもらったので一年間米を食べなくたって平気だぜッ!……とは言い難い。親戚が米を作っているので、パンやうどんみたいな小麦粉由来の炭水化物はなるべく食べないようにしてきたのだ。脂っこい食事は腹が受けつけないのだが、帰国するときには体型がどう変わっているだろう? 願わくば身長があと5センチ伸びて、肩幅広いマッチョにならんことを。

   ハードディスクとメモステには40ギガバイトを超える小説、音楽、アニメやゲームが詰まっているので、日本語に飢えることはあるまい。もしも全てを消化することがあれば、それは部屋に引篭もってた証拠になるだろう。……そういうことにはならないはず。コードギアスやマクロスFの最終回が見れないのは残念だが、結局は時間の問題で、遅くとも帰ってくれば見れる。ライドウのマニアクス付き限定版もすでに予約したので楽しみだ。

   ナンシーは人口が10万人程度で日本人は10人もいないと聞く。日本人には飢えるかもしれないが、静かでいいと思う気持ちもある。ウィキで確認してみると、人口密度はナンシーのほうが金沢市の7倍大きくて名古屋市と同じくらいでビビる。

   手荷物を詰め込んでいてやっと気が付いた。フランス語と日本語の併記された参考書が三冊しかない! しかも単語集、雑学、授業で用いられた簡単な読解本だけでいまいち実用性を欠く。図書館で借りて済ませてきたのが祟って当日になって焦る。せめて手紙の書き方だけは途中で買っていかなくては。ドイツ語やスペイン語の参考書も欲しいが、いちいち日本語に立ち返らずにフランス語で勉強したほうが早いかも……やってみないと分からんけど。

   帰国予定は来年の七月。

   次はネット接続環境を見つけ次第更新……できるとイイナ!
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